2009年11月17日火曜日

釜山室内射撃場の火災は粉じん爆発?

 韓国釜山のガナラダ実弾射撃場で邦人7人が死亡した火災の原因について、韓国警察当局は銃弾の火薬が空気中のチリなどと混ざり、粉じん爆発を起こした可能性が高いと見て、再現実験を予定しているらしい。

 この火災を目撃した人の話によると、「ボン」という爆発のような音がしたかと思うと、黒い煙が窓の隙間から噴出し、体中真っ黒になった人が階段を駆け下りてきたという。

 6年前に名古屋の運送会社で会社の賃金不払いに抗議した男がガソリンを撒いて火をつけた事件も、爆発の瞬間に窓から黒い煙が噴出していたのを中継のカメラが捉えている。

 この場合は、男がガソリンを床に撒いてしばらくの後に爆発しており、ガソリンが気化するのに最適な時間経過があった事が強烈な爆発を引き起こしたようだ。この場合は粉じんではなく、気化したガソリンが空気中に充満し、爆発濃度に達したもので爆発の仕組みは同じである。

 火災があった釜山の室内射撃場では、実弾発射の音が外部に漏れないよう窓はすべて閉鎖されており、出入り口も丈夫なドアーで開閉はフロントでコントロールするようになっているという。これは銃器を扱っているので防犯の上でも必要なのだ。

 この店に被害者の邦人が入店する場面がニュースで流されたが、店のドアーは開いたままになっているようだ。おそらく団体客だったので一時的にドアーを開放したのだろう。

 いずれにしてもこのような室内実弾射撃場は、防音と防犯に重点を置いた造作がなされており、言い換えれば物理的に外部と完全に遮断された空間になっている。このことが銃弾を発射した時の火薬の微粒子が空気中に浮遊しつづけるのを容易にし、炭鉱などで起こる粉じん爆発と同様なことが生じたのではないかと思う。この火災現場における換気施設がどのようなものであったかは今のところ情報がない。セントラルヒーティングのように循環した空気の流れがあればフィルターによって粉じんは除去できるかもしれない。かりに換気扇で換気をしようとしたら、かなり強力なものでないと増え続ける火薬の粉じん濃度を低下させることはできないと思う。しかしそれは同時に防音の効果を弱めることのなるので、はたして換気扇が設置されていたのかどうかあたしにはわからない。

 粉じん爆発は日本の炭鉱でよく起こり、多数の死者が出たことはご存知の通り。しかし炭じんや火薬の粉じんだけでなく、あたしたちの身近にあるもの、たとえば砂糖だとか、小麦粉でもその粒子が空気中に適度な濃度で混ざると強烈な爆発が起こるのをご存知かな。アメリカでは砂糖精製工場で砂糖の袋詰め作業中に粉じん爆発が起き、8人が死亡した。新潟県では死者こそいなかったものの化学工場で石炭や火薬でない粉じん爆発と思われる事故が起きている。こちら「粉じん爆発のメカニズムを探る(http://www15.plala.or.jp/katya/hunnjinnbakuhatu.html)」に詳しく説明したものがある。

 では火災を起こしたこの射撃店が今まで何事もなかったのはなぜか。空気中に浮遊する火薬の微粒子すなわち火薬の粉じんはそのまま何日も何ヶ月も浮遊するものだろうか。掃除はするだろうし、人の出入りによって空気が入れ替わるだろうし、なんといっても密閉された空間の換気をしていなかったとは考えにくい。不十分ながらも何らかの方法で換気はしていたのではなかったかと思う。ただ不十分な換気のため、室内に漂う火薬の粉じんを完全に除去しきれなかった、と考えられないだろうか。増減を繰り返しながらも日を増すごとに空気中に漂う火薬粉じん濃度は徐々に高まり、邦人の団体客を迎えた14日の午後2時過ぎに最適な爆発濃度に達してしまった。

 粉じん爆発がおきるためには、「適度な粉じん濃度」「着火元」「酸素」の3つの条件が必要である。

 着火元はどうだろうか。11月14日の釜山の天候は曇り、気温は最高16度(摂氏)、最低7度(同)、雨量は0であったという。この時期の韓国の湿度は平均約30~40%という。当日の釜山での湿度の情報は入手できなかった。14日前後の日と比べてこの日は温度も高く、したがって飽和水蒸気量は高くしかも前後の天気も曇り勝ちで必ずしも静電気が発生しやすいものではなかったようだ。しかし室内の環境はかなり異なっていたかもしれない。一部の報道によると待合室にストーブがあったともいわれている。これが事実とすれば着火元は容易に断定できるが、暖房により室内の湿度が低下して静電気が生じやすくなっていたという可能性も捨てきれない。人為的に使用した火、たとえばピストルの発射時の火炎、タバコの火、電気器具の火花など火元の特定は難航するかもしれない。

 いろんな状況を考えると、火災の原因は韓国警察当局の言う粉じん爆発だということはほぼ確実だろうとあたしは思う。決して皆無ではないが、稀有な事故に遭って我が子や肉親を突然失ってしまった遺族を思うと胸が痛む。

心からお悔やみ申し上げます。

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