2019年8月10日土曜日

小泉進次郎氏よ、丸くなるな!

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 いくらおめでたい話でも、こんな公私混同はアウトだろう。

 それは、フリーアナウンサーの滝川クリステルさんと自民党の小泉進次郎衆院議員が官邸で私的な婚約発表を行ったことだ。

 これまで小泉進次郎氏の安倍首相に対する指摘には鋭いものがあった。

 同じ自民党員でありながら、このような鋭い指摘をする議員はあまりいなかったように思う。

 だからこそ、小泉進次郎氏に対して与野党の区別なく多くの国民の支持があったのだと思う。

 そのような小泉議員の行動が不可解に思えたのが昨年の自民党総裁選の時であった。

 昨年9月20日、総裁選への対応をなかなか明らかにしなかった小泉氏は、当日の昼過ぎになって記者団に対し「石破さんに入れる」と語ったが、それまでの時と違って表明が遅すぎると思った。

 なぜなら、その時点では自民党の国会議員の多くが態度を決めていたからである。

 小泉氏がもっと早く表明したならば総裁選の結果は変わっていたかもしれない。

 なぜ小泉氏はぎりぎりまで表明しなかったのか。

 安倍氏に対する忖度かとも思った。

 それ以来、国会では政府に対して小泉氏の鋭い指摘を聴くことが少なくなったように感じる。


 8月7日に小泉氏と滝川クリステルさんの婚約発表を聴き、合点がいった。

 滝川クリステルさんは現在妊娠しており、年明けに出産予定だということも併せて考えると、昨年の総裁選の時は小泉氏は角が取れて丸くなっていたのかもしれない。

 人間、角が取れて丸くなればいいのかと言うと、そうでもない。
 ここ一番の時は、鋭い指摘をしてほしいものである。

 安倍政権に対して今までのような鋭い指摘が無くなれば、それはかっての小泉進次郎ではない。

 さらに、たとえ多くの国民の支持があったとしても、官邸で私的な婚約発表すること自体をおかしいと思わないとしたら、国会議員として?がつくのではないだろうか。

 次の内閣改造で入閣云々と言われているが、公私の区別がつかぬのであれば、公私混同の安倍政権と同じではないか。


慶事の婚約発表に、あえて苦情を述べる次第である。

2019年7月23日火曜日

吉本興行 岡本社長の謝罪会見は演技!?


2019年7月22日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より

 反社会勢力の会合との関りで吉本興業から契約解除されたお笑いコンビ「雨上がり決死隊」の宮迫博之氏と、「ロンドンブーツ1号2号」の田村亮氏のふたりが20日の謝罪会見で、真実を話したいと先月岡本昭彦社長に伝えたが、岡本社長からは「会見をしたら全員クビ」だと言われたということを明らかにした件について、岡本社長が22日に謝罪(?)会見をした。

 5時間超にも及んだこの会見で得たことはただ一つ、この会見は「謝罪」でも何でもない、言い訳に終始したというべきだろう。

2019年7月23日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より

 その中で岡本社長は、脅しは冗談だったとか、発言は家族間のフランクな言葉使いの一端が出たというようなことを言っていたが、その場の空気が
冗談を言ったり、家族間の雰囲気であるはずがない。

 岡本社長の発言は、聞いていてあきれるばかりである。

 もし、コンプライアンスを忠実に守っている組織のトップならばこういう言い訳はしないだろう。

20日に行われた宮迫氏と田村氏の謝罪会見
(2019年7月22日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)

 この日の岡本社長の発言について、他の芸能人からも相次いで批判が出ているが当然だろう。

 一度はウソをついて、急場を切り抜けようとした宮迫氏らにもそれなりの責任はあるが、その責任の重大さを感じて真実を公表しようとした宮迫氏らの行動を岡本社長は脅しをかけて阻止しようとしたのである。

 それにもまして驚くのは、ひょっとすると吉本興業が反社会勢力とつながっていたのではないかとの記者の指摘があったことである。

吉本興行は反社会勢力とつながっていたのではないかという記者の指摘に答える会社側弁護士
(2019年7月23日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)

 もしこれが事実だとすると、宮迫氏らの早期の謝罪会見を岡本社長が阻止した理由がわかる。自分に降りかかってくる問題だからである。


 吉本興業と言えば私はあの場面を思い出す。

 それは今年の4月、大阪市にある吉本のお笑い劇場「なんばグランド花月」の舞台に安倍首相が現役首相として初めて登場し、その模様はテレビでも放映されたことである。

2019年4月22日 MBSテレビ「吉本新喜劇}より

 また6月の初めには吉本興業の芸人が官邸で安倍首相と面会をしている。

 このように吉本興業と安倍首相が深い関係にあることは第二次安倍政権が発足後、政府が約600億円を出資した官民ファンド「クールジャパン機構」(東京)に対して吉本興業が計22億円を出資していることからでも明らかである。


 先日、あのSMAPが所属していたジャニーズ事務所を公正取引委員会が注意をした。

 SMAPの元メンバーである稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんについて、ジャニーズ事務所がテレビ出演させないよう各テレビ局に圧力をかけていた。

 この行為が独立禁止法違反につながるおそれがあるとして、公正取引委員会が注意をしたのである。

 このことに対しジャニーズ事務所は「弊社がテレビ局に圧力などをかけた事実はなく、(途中略)今後は誤解を受けないように留意したいと思います」と圧力を否定した。

 あのスマップ解散騒動が起きた直後から、テレビでは元メンバーのレギュラー番組が相次いで終了し、元メンバーの姿をテレビ画面で見かけることが極端に少なくなったと感じていたのは私ばかりではないからである。

 ファンの間では、ジャニーズ事務所から何らかの圧力が各テレビ局にあったのだろう、というのが大方の見方である。

 このジャニーズ事務所と吉本興業のテレビ業界に対する動き、何となく似ていないか。


 芸能界など、どこもこんなもんだよ、と言われればそうかもしれない。


 しかし、政界においても同じような現象が見られるのはどういうことか。

 都合の悪い情報や反政府的な意見を流すテレビ局に対して、放送法を弄って脅しをかけようとする政府の行為がしばしば見られる。

 去る3月5日に閣議決定された、NHKによる放送コンテンツのネット同時配信(サイマル配信)はその典型的なものである。

 もしこれが本格的に運用されれば、民放は太刀打ちできない。

 政府はこの「サイマルネット配信」の手綱を強く引いたり、緩めたりして各テレビ局の放送内容を意のままにコントロールしようとしているのである。


 今回の吉本興業のお笑いタレンの闇営業に端を発した騒動は、地位を利用して下の者に脅しをかけ、都合の悪いことを封じる今の風潮が笑いの世界まで蔓延したことを反映したものであろう。

 もし吉本興業の経営陣がこの問題をこのまま放置して、ほとぼりの冷めるまで待つという姿勢をとるならば、キャラが大事なお笑いの世界、以前と同じ感覚で吉本興業の催事が今までと同じように大衆に受け入れられるかどうかははなはだ疑問である。

 そういうことを考えれば、この際吉本興業の岡本社長らが潔く退くことが最善の策だと思われる。

2019年7月8日月曜日

日本政府の対韓輸出規制は、参院選において不都合なことから国民の目をそらして支持率を固めるため

 古(いにしえ)の時代から、為政者は自分の国に都合の悪いことが起きると、国民の目をそれからそらすために国の外に敵を作り、己への支持を固める政治手法を使ってきた。

 今回、唐突に韓国に対する輸出規制を日本政府が行ったのもそのひとつであろう。
  
 7月4日、日本は韓国に対して半導体材料など3品目で契約ごとに輸出を審査・許可する方式に切り替えた。

 これまでのいきさつから当然、韓国が反発するのは予想されることである。

 今回の輸出規制にあたり、政府と安倍首相は次のように考えたのであろう。

 ①このことで韓国が反発すればするほど、日本国内の結束は高まって安倍政権の支持は固いものとなる。

 ②それは自民党にとって参院選で好ましい結果をもたらすものとなる


 現に、JNNがこの6,7日に実施した世論調査では次のような結果が出ている。 

 韓国に対する輸出規制についてどう思うかの問いに
          妥当だと思う     58%
          妥当と思わない    24%
          答えない、わからない 18%
 なんと6割の人が妥当だとているのである。

 唐突に出てきた韓国に対する輸出規制は、21日の参院選投開票を前に安倍政権にとって不都合な事柄(年金問題や10月の消費税増税など)を国民の目からそらすためと、外に敵を作ることによって国内の支持を固めることを狙ったものであろう。

 なぜなら、どうしてこの時期に?、と思うからである。

 今回の輸出規制について韓国の一部のメディアは「21日に実施される参院選を意識して(日本政府や安倍首相が)幼稚な手法を使ったとの指摘もある」と、まさに的を得た報告をしている。

 徴用工問題や慰安婦問題、レーダー照射問題などでぎくしゃくしている日韓外交であるが、これらの問題はずっと前から起きていたことであり、この時期になって突然に対韓国の輸出規制が出てくるのは不自然である。

 日本政府は「(徴用工問題などの対する)報復措置ではない」というが、安倍首相は7日のテレビで、対韓国の半導体材料の輸出規制について「(韓国側に)不適切な事案があった」と述べたが、その具体的な理由は明らかにしていない。

 不適切な事案が何であったのか、具体的な理由を明らかにしない以上、この輸出規制は韓国のメディが報じるように「21日の参院選に対する幼稚な手法」と思わざるを得ない。

 また、この輸出規制において日本政府は韓国に対して逃げ道を用意している気配がない。つまり、日韓がともに納得できるような落ちどころを検討していた形跡が無い事である。

 言い換えれば、厳しい輸出規制をしたものの、その出口を日本政府は検討していないということである。

 これでは今後の日韓関係は泥沼化してしまうだろう。

 それを喜ぶのは中国であり、ロシアであり、北朝鮮であるかもしれない。

 韓国は今回の輸出規制に対して、半導体材料の輸入先を日本から中国などの他の国に変える方針だという。

 もちろん品質などの点ですぐに実現することは難しいだろうが、中国などの他国に日本の技術者が引き抜かれるのは時間の問題であろう。

 なぜなら、日本における半導体材料の技術者は韓国への輸出が滞って会社の業績が下がり、技術者は失業の憂き目に遭うかもしれない状況に置かれるからだ。

 そして驚くことは、国内の関連会社がこのような事態に陥るだろうことに対して、事前にその対策を政府が講じているかどうかわからないことだ。

 同じようなパターンは過去に何度も見られたことだ。

 今回の件は、政府から事前に日本の関連会社に知らされなかったという。
 それだけに関連会社にとってこの輸出規制は青天の霹靂だったというのもうなづける。

 参院選で不都合なことから国民の目をそらし、己の支持率を高めるためだけに利用するという安倍政権の今回の政治手法は決して賛同できるものではない。

2019年7月1日月曜日

電撃的な米朝3度目の会談、これでG20大阪サミットのニュースは吹き飛んだ


 トランプ大統領は30日午後3時45分ごろ、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線上の板門店を訪れ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と握手をした。

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南北軍事境界線を現職の米大統領として初めて越えたトランプ大統領と金委員長
(2019年6月30日 ABCテレビ「サンステ」より()

 軍事境界線を越えたのは米国の現職大統領としては初めてで、トランプ大統領は金委員長と握手をしながらおよそ1分間、北朝鮮側に足を踏み入れた。

 このトランプ大統領と金委員長の電撃的会談は、つい先日まで日本で開催されたG20大阪サミットのニュースを一瞬にして吹き飛ばした。

 G20サミットの最終日、形式的で一向に目映えのしない中身の薄い大阪宣言を得意げに発表する安倍首相は、非武装地帯でトランプ大統領と金委員長が握手を交わしながら南北境界線をまたいでいく映像に完全に打ち負かされた感がある。

 7月1日のニュースは、板門店でトランプ大統領、文在寅大統領、金正恩委員長の三人が並んだ映像は流れても、日本が議長国を務めたG20大阪サミットのニュースはほとんど流れなかった。

 もっと意地悪い見方をすれば、G20大阪サミットで安倍首相から冷たいあしらいを受けた韓国の文在寅大統領がトランプ大統領の突然の発案(休戦ライン訪問)に乗じて、安倍首相に一泡吹かせたともいえよう。

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板門店で握手するトランプ大統領と金委員長
(2019年6月30日 ABCテレビ「サンステ」より)

 この電撃的な板門店の米朝会談実現で、G20サミットが日本で開催されたことなど、はるか彼方に吹き飛んでしまったようである。

2019年6月30日日曜日

「大阪城のエレベータ―設置はミス」と安倍首相

 G20大阪サミットが29日、閉幕した。

 議長役を務めた安倍晋三首相は総括で「力強いメッセージを出せた」と宣言したが、「そうかな?」と頭を傾げたくなる。

 なぜなら
 本来G20サミットはG7サミットの後に開かれるのが通例なのだが、今回は順序が
逆転した。

 なぜG7よりも先にG20サミットが開かれたのか?

 それは7月末の参院選を前に、G20サミットの議長国として何らかの成果を上げて目立ちたい安倍首相の裏心があったからである。

 今回、大阪宣言には「保護主義と闘う」との文言が盛り込めなかった。それどころか
安倍首相がこの件に対して真剣に取り組んだかというとそれはあやしい。

 さらにロシアのプーチン大統領との会談において、安倍首相が北方領土返還について話し合ったという形跡も見られなかった。

 政府は外交の難しさをたとえて「相手のある事だから」とよく言うが、この世の中すべてが「相手のある事」だらけである。

 安倍首相の人格に疑問を抱かせた次の例がある。

 それは、安倍首相は今回のG20大阪サミットの夕食会あいさつで、大阪城復元について触れたとき「大きなミスをしてエレベーターを設置した」と言った。

 安倍首相は、体が不自由な人のために大阪城にエレベーターを設置したことを「ミス」と言い、しかもそのことでG20に出席した各国首脳の笑いを誘おうとしたのである。

 この安倍首相の発言に対して会場は大きな笑い声が起きるでもなく、各国の首脳はあいまいな微笑を浮かべただけだったという。

 安倍首相のこの「エレベーター設置はミス」だとの発言に、バリアフリー社会に逆行するとして障害者のあいだから反発の声があがったのは当然であろう。

 一方、このことは些細な事だという反対の声もある。

 しかしこれら反対意見を持つ人たちの多くは、大阪城の最上階の天守まで自分の足で上がって行くことが出来る健常者である。

 エレベータでしか天守の最上階まで行くことができない障害者の事を思い至ることが出来ない国の最高権力者とは一体何だろう。

 場末の飲み屋で一介のサラリーマンが大阪城の復元について偉そうに話をしているのとわけが違うのだ。

 国の最高権力者の人格はいつの場合でもすべての国民の模範となるものでなければならない、とは高望みだろうか。

2019年6月21日金曜日

安倍晋三首相以外なら誰でもいい

 今からちょうど8年前の6月2日に、衆院で当時の菅内閣に対する不信任決議案が提出されたが、民主党や国民新党などの反数で否決された。

 その時は3月に起きた東日本大震災により政界はゴタゴタしていた。

 当時は民主党政権下で、震災直後の菅首相の行動が不適切であることも手伝って、菅内閣に対する不信任決議案に民主党の鳩山前首相(当時)までもが賛成していた。

 しかし直前になって鳩山元首相は不信任案に反対した。

 当時のブログに私は、「一連の国会のゴタゴタはちょうど園児の寸劇を見ているようで、日本の政治というのはいまだ未成熟だとあらためて思い知った」と書いている。

 歴史は繰り返す。

 今、国会では野党が麻生財務相に対して、衆院では不信任決議案を、そして参院には問責決議案をそれぞれ提出した。

 さらに野党は内閣不信任案や安倍首相の問責決議案の提出を検討しているという。

 私は8年前の国会のゴタゴタを園児の寸劇にたとえたが、今の国会に対してその考えは変わらない。

 今の衆院の議席数は自民党によって多数を占められ、そのために独裁的な国会運営がなされていることに危惧を抱く。

 安倍首相はさる19日の党首討論で衆院解散は頭の隅にも無いと言った。頭の片隅には無いが中心にはあるかもしれない。

 野党が内閣不信任案や安倍首相の問責決議案を提出したならばどうなるかわからない。


(お断り:以下の文章は6月19日に他のブログサイトに投稿したもので、再掲です)

 19日の党首討論を視聴した。

 安倍首相と各野党党首が真剣白刃で戦い合うのかと思っていたら、見事その期待は裏切られた。

 せっかく金融庁の「老後2000万円問題」どころか「3000万円問題」という政府を追及する好材料が転がり込んできたのに、安倍政権に対する野党党首の切り込みは観ていて歯がゆいものだった。

 党首討論で「逆切れ解散」という憶測もあったが、そんな気配も無く、午後4時前党首討論は平穏無事(?)に終わったのである。

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 おそらく各野党党首の頭には、怖い衆院解散という文字がちらちらしていたのだろうか、結局党首討論はおざなりの追及に終わったようにみえたのである。 

 野党はなぜ、身を挺してもっと鋭い追及ができないのか。


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 今のように内憂外患のややこしい問題を抱えているときの政治は避けたい、というご都合主義が見え見えである。

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 7月の参院選あるいは衆参ダブル選で、自民党や公明党の与党に鉄槌を加えることが出来たならば、安倍首相といえど総理や総裁の座に安穏としてはいられないだろう。



(写真はいずれも2019年6月19日党首討論 衆院TVインターネット中継より)

 あるメディアの世論調査では、安倍首相を支持する理由として「ほかに適当な者がいない」という理由が多かった。

 こんな消極的な理由で、内外の問題が山積して一向に解決の兆しが見えない安倍政権にこの日本を任せてよいものだろうか。

 今のところ参院選単独かダブル選になるのかわからないが、7月の選挙の結果で自民党が大幅に議席を減らせば安倍首相は今のままでは済まないだろう。

 極端に言えば、真実を国民に正しく伝えることが出来る政権であるならば、たとえそれがどのような政党であろうと厭わない気持ちになってくる。

 今は「安倍晋三以外ならば誰でも」という心境である。

2011年6月3日金曜日

不信任案否決 今更ほぞをかんでも後の祭り

 衆院で2日行なわれた菅内閣に対する不信任決議案は民主党や国民新党などの反対多数で否決された。

 直前の鳩山前首相との会談や代議士会で、菅首相の「一定のメドがついた時点で身を引く」という含みのある発言で、それまで不信任案賛成に傾いていた若手議員や、こともあろうに鳩山前首相までもが不信任案に反対票を投じた一連の国会のゴタゴタはちょうど園児の寸劇を見ているようで、日本の政治というのはいまだ未成熟だとあらためて思い知った。

 不信任案が否決された後で、菅首相が「辞任する等と言った覚えは無い」と開き直ることを鳩山前首相や若手の国会議員が予想できなかったのは仕方がない。民主党のレベルとはそんなもんだ。本当の政治家ならばきちんと書面を録っておくのが当然で、ここでも政権担当能力に欠ける党の一面を見た気がした。

 国会議員であれば、いや政治家であれば言ったことに責任を持つことが当然なのに民主党の幹部の言うことは信用できぬことを今更ながら思う。それを首相が率先して行なえば他の閣僚は何をかいわんや。だからこそきっちりとした書面が必要なのである。

 今、不信任案に賛成して解散にでもなったら再び国会議員のバッジをはめるのは難しい。それなら残りの任期を今の身分で通しきったほうがいい。その間にまた民主党の支持率も上向くかも知れない。代議士会で菅首相は若手に後を譲ると言っているし、鳩山前首相も党を二分するようなことは避けたいと言った。一度は不信任案に賛成票をと思ったが、やっぱりまだ国会議員でいたいし事を荒立てるのは止めておこう。

 まあ若手国会議員の胸の内はこんなもんだったのだろう。そこには今なお東日本大震災で辛い毎日を送っている被災者のことなど全くない。保身のためには信念(あればのことだが)に背いて平気で前言を翻すことなどなんとも思わない国会議員がいる。驚くことに若手議員ばかりでなく、日頃菅政権を批判していた中堅の民主党国会議員でさえも、菅首相の甘い言葉に翻弄されてしまった。

 不信任案が可決されて菅首相が衆院を解散したら被災地では大混乱が生じる、だから賛成してはならないという考えは不信任案の趣旨を履き違えている。

 これは後で述べるが、菅政権の平時での政治運営はもとより、東日本大震災と福島第一原発事故への対応能力が著しく劣っていることに起因して提出された不信任案である。

 大震災からもうすぐ3ヶ月である。例え未曾有の大震災であったにしろ、私たちの義捐金の多くがいまだ被災者に渡っていないということを聞くと、なにかせっかくの想いが棚上げされたようで、義捐金は被災者に直接渡したほうが気持の収まりが付いたのではと思う時がある。

 被災者の救済や原発事故の対応の拙さを自治体が、赤十字が、東電が、原子力安全保安院が、と言うが、もとを辿れば政権が弱いからだ。そのふらつく政権の足元を見ていろんなところがなめてかかっている構図が私には見える。馬も弱腰の騎手を見れば振り落とすという。

 未曾有の大惨事である。とにかく原発の収束に向って強引とも思える手段を使ってやっていれば、今頃は収束の段階にあったかもしれない。最初の段階で大きくボタンを掛け違えたのだ。悠長な判断が招いた結果だ。 

 特に福島第一原発事故では対応を誤れば、この後何十年何百年と影響があるかもしれないほど重要で最優先で取り組まねばならない事故なのに政権にその気迫が今も見られない。現に今までの対応で冷却水の注入経緯や放射能測定値の公表の有無、原発周辺の住民の避難方法などにおいて大きな混乱があった。

 未曾有の災害に遭って復興途中にある一国の有能なリーダーは、もし不信任が可決されたならば混乱を引き起こす解散など選択せずに、自らが身を引く冷静さを備えているものである。こともあろうに解散を脅しに使うなどとは許されることではない。

 菅首相の見苦しい面は、解散を脅しに使って統率をはかるという、日本人が古来から持ち合わせている伝統の「潔さ」から程遠い手法を使っていることだ。

 その狡猾さが今回の不信任案採決にも現れた。

 今回の逆転劇を「素晴らしい」と評価するコメンテーターがいた。
 菅首相が今回のシナリオを作ったのではなかろう。指南役が居る。彼らの役目は他人を欺く、そして身内も欺く術に長けていることだ。そして最後に国民を欺く。始末の悪いことに、そういう能力があれば原発事故を一日でも早く収束させることに使ってほしいのだが、それには発揮できないようだ。


 こうして私はキーボードで一文字一文字を入力している間にも、福島第一原発では放射性物質が自然界に放出されているのである。人間ばかりではなく、周辺の動植物にどれほどの影響があるか誰にも分からない。原発に接する海底では何が起こっているのか、放射線量はどうなのか、そこに生息している海産物は安全なのか。私たち国民にこれらの情報が殆ど入ってこない。

 昔、アメリカが太平洋で実施した核実験によって魚が汚染され、日本では「原子マグロ」と大騒ぎになったことがある。他の国が行なった放射生物質の海洋汚染に対して日本で起きた騒動は風評被害だと誰も言わなかった。

 小さな島国の日本である。世界地図で日本の福島を探すといい。そこで原発事故が起き、少なくとも3基の原子炉で核燃料のメルトダウンが生じて周辺に放射性物質が放出した。30km圏内の住民は避難した。このニュースを聞いた外国の人たちはどう思うだろう。

 たとえば日本と同じ島国のイギリスで原発事故が起きたと考える。私たちはイギリスへの観光やあるいはイギリスで作られた製品をどのように思うだろうか。
 日本政府は直ちにイギリスからの食品などの輸入に規制をかけるだろう。それを風評と言うだろうか。

 核に対する反応はどこの国でも似たようなものである。
 日本で起きたからと特別に敏感になっているわけではないのである。
 
 一部の情報では福島県浪江町で耳のないウサギが生まれたそうである。私は不安をあおっているわけではない。放射性物質の影響か否か、それもわからない。ただこういうことが報告されていることに目を背けないでもらいたい。事実私たちの身には今何も起きていない。しかし原発周辺の世代交代の早い動植物がどうなっているのかを知って、私たちの将来、あるいは子供、孫の将来を予測することは可能である。

 福島第一原発事故の対応を誤れば、東日本どころか日本全部が汚染されてしまい、日本で生産される食物はおろか、工業製品、日本近海で獲れた魚介類さえも輸出できなくなる怖れがある。それどころか日本人が外国に行くことも制限されることも考えられる。

 日いずる国といわれた美しい日本が、米国が昔行なった核実験で今でも放射能が検出されて立ち入りが制限されているアリューシャン列島のある島のように寒風吹きすさぶ死の島とならぬよう、すぐにでも手を打たねばならないのに、官邸で今回の不信任案否決にニヤニヤとした顔をしている閣僚を見ると、本当にこの人たちは日本という国を愛しているのかと疑問に思う。日本という国家がまかり間違えば消滅する可能性だってあるのだ。何百年か先に、この島を捨て、流浪の民となって世界各国を渡り歩かねばならないことだって考えられるのだ。

 放射性物質にそう神経質になることはありませんという政治家や学者がいても、彼らが原発の近くに家を構えて家族ともども生活していないのでは説得力はない。もちろん原発のトップの方々も。

 電気を必要とする場所に何故原発が一基も作られていないのか。

 私は今になって思う。

 福島第一原発で政府や東電が正しい対応をてきぱきと行なって、放射線量などの情報を適宜迅速に公開していたならば、未曾有の天災で生じた原発事故であったが資源のない日本の将来のためにはこれを教訓としてさらに安全な原発と共存していくほかに道はない、と国民は悟り、受け入れようとした空気が生まれたのではあるまいかと思うのである。

 現状はまさにその対極である。
 どう対応してよいかわからぬ政府と東電。そして二転三転の情報修正。それこそ手探りの状態で遅遅として進まぬ収束までの道のり。それは不信任案が否決された今となっては菅政権の花道となった。とすれば菅首相が任期を全うするまで収束などありえないのかと勘ぐりたくなる。

 政権の延命に原発事故の収束を使われるようではまともな対応は出来ないだろう。

 今一度言う。取り返しのつかない事態になる前に、もっと強力なリーダーシップを持った者が政権を担うべきだと私は思う。

 つい数時間前は不信任案に賛成するといきまいていた議員が反対票を恥ずかしげもなく係りの者に渡す。そんな中、不信任案に賛成票を投じた松木前農政政務官と横粂衆院議員の二人が除名処分となった。二人の行動は国民に分かりやすく、これを幼い、短絡的というならば国会議員に正義はいらないことになる。
 
 採決直前に変心された国会議員様、今更臍をかんでも後の祭り。