2009年10月14日水曜日

羽田ハブ空港化と「東の成田、西の関空」

 前原誠司国土交通相が12日に羽田空港の国際ハブ化について最優先で進める考えを表明したことに成田空港周辺の首長らから反対の声が上がっている。東京都や神奈川県は歓迎の意向を示しているという。
 
 おなじみ日本国における典型的な地元エゴのパターンだ。苦労の末できた地元の空港が大臣の一言で軽んじられたと思ったら即座に非難の嵐だ。他方恩恵を受ける東京都や神奈川県は大喜びだ。

 前原国交相の羽田空港ハブ化の考えは、関西空港(以下関空)の活性化策等について橋下大阪府知事と会談した際に明らかにしたものだが、関空の活性化策については具体的な話にまでいかず、橋下知事の目的は不発に終わったようだ。関空のハブ化を持ち出したら主題が羽田空港のハブ化に移り、外野の騒々しさも加わって関空の話はかすんでしまった、というところか。

 橋下知事は日本には2つの国際ハブ空港が必要だというのが持論だけど、関空をその一つに数えれば、もう一つは成田か羽田に落ち着くだろうと予測はしていたのだろう。関空を国の政策で重要視する、すなわちハブ化するという国交相の言質さえ取れば、もう一つのハブ空港が成田であろうと羽田であろうと余り関係ないという気持ちがあったのかもしれない。残念なことに会談はそういう成り行きにならず、羽田空港の国際ハブ化のみがクローズアップされた。これを受けて橋下知事は「羽田空港だけでなく2つのエンジンが必要」として「福岡空港や中部国際空港でも僕はいいと思っている」と話した、という。

 さらに橋下知事は「羽田以外のもう一つは関西国際空港でなければいけないというわけではない」と殊勝なことを言っていたが、すぐさまリニア中央新幹線構想に触れ「大阪の拠点は北ヤードだと思っており、さらに関空やベイエリアにつなぐことを念頭に置いている」と述べたから、やっぱり関空のハブ空港化かまたはそれに等しい国の支援を要求しているのは間違いない。その上、もしそれがムリなら大阪府が支出している関空関連施策の8億円について来年度以降の凍結を示唆し、脅しともとれる圧力をかけている。

 森田健作千葉県知事は前原国交相の羽田空港ハブ化の表明について「悔しくて眠れなかった、冗談じゃない」とお怒りになっているが、この人は自分の言葉に酔って激昂するタイプだから少々割り引いて聞いてやる必要がある。14日の前原国交相との会談後は、あの怒りがウソのように笑顔でインタビューに答えていたからやっぱりね。報道では前原国交相が羽田のハブ化についてトーンダウンしたように報じていたが、森田知事との会談で大臣は羽田空港をハブ化しないとは言っていないようだし、1)2つの空港を一体的にとらえ合理的なすみ分けを考える2)意思疎通をはかる、と言ったにすぎない。この程度で納得するくらいなら血管浮き上がらせて拳を振り上げることもないだろうに、と思ってしまう。

 橋下大阪府知事や森田千葉県知事のみならず、地元に空港をかかえる首長さん方はみな自分のところの「府益」「県益」「市益」「町益」を守ることに一生懸命だ。「国益」という言葉があるなら、「府益」「県益」などの言葉もあっていいわけで使わしてもらったけどあまりポピュラーではないようだね。
 
 とにかくあたしが言いたいのは、国と自治体がこういうエゴの張り合いをやっている限りいつまで経っても日本に国際ハブ空港はできないだろう、ということ。むしろこういう姿を見ていると日本に国際ハブ空港が本当に必要なのか、と疑問に思ってしまう。

 すでにバンコク・スワンナプーム、シンガポール・チャンギの両空港が国際ハブ空港として100%機能している。これらの空港は東南アジアの他都市やオセアニアの中継地点として非常に有利だという地理的条件が大きく作用しているんだ。香港はハブ空港といえるかどうかというところだね。韓国の仁川空港、上海の両空港は欧米の航空会社に言わせると、日本で言うほどハブ空港としての魅力は少ないらしい。日本の空港のハブ化論議でよく引き合いの出される仁川空港はどちらかといえば着陸料の安さで魅力的なんだ。日本の空港の着陸料のベラボーな高さを言わずして、いくら滑走路を拡張し、設備を立派にして国際ハブ化を唱えてもしょうがないんじゃないの。

 現在、この狭い日本に空港は98もあるんだ。国土面積では世界で61位の日本が空港数では16位であるということは、いかに空港が多いかということだ。それらの空港が互いに客を奪い合っている。計画の段階ではバラ色の予測を掲げているが、実態とかけ離れた数字を誰も信じていない。それでも「地域の活性化」という掛け声で、新しい空港が次から次へと雨後の竹の子のようにできるのを誰も止めようとしない。挙句の果てにパイの奪い合いだ。かってのような経済の発展が望めない中で、激減した利用客の奪い合いをせざるを得ないような空港の乱立を認めてしまう地方行政の貧困を憂うのはあたしだけ?

 あたしは、なかなかできないダムの代名詞として過去に頻繁につかわれた「東の八ッ場、西の大滝」をこの「成田空港」と「関空」に置き換えてみた。「東の成田、西の関空」というわけだ。その過程は同じ様なものだ。ダムの方はどちらもまだ完成していない。成田も関空も完工していない。着工時に争いや流血などがあった公共工事はいろんな問題がいつまでも尾を引く。まして死傷者が出た成田は今もなお強固な反対運動があって、滑走路の拡張工事がうまくいかない。関空は大阪空港(伊丹)との競合で需要が伸び悩んでいる。

 せっかく造ったけど、都心まで遠い(成田、関空)、滑走路が延長できない(成田)、着陸料が高い(成田、関空)、既存の空港が近くにあり競合している(関空)とすれば、既存の空港で都心に近く、利用者も多い羽田空港や大阪空港が可愛がられるのは当然かもしれない。ただ大阪空港は羽田空港と違い、三行半を突きつけられそうになった空港である。それは関空ができたら騒音問題が大きい大阪空港を廃止するような雰囲気で事業が進められたことである。大阪空港が廃止されれば新しい空港を造らざるをえないという心境にさせておいて新空港着工にこぎつけたんだ。ところが関空が開港しても交通の便がよい大阪空港に以前と変わらない利用者があるのをみて、騒音問題はどこ吹く風といった感じで未練をたちきれず、大阪空港廃止反対に流れが変わってしまった。戦略なき日本の航空行政の典型がここにある。

 日本に国際ハブ空港などはいらない。外国の航空会社から見て、地理的にハブ空港になるメリットがほとんどないのだ。今の飛行機は航続距離が伸びてアメリカ本土から一気に東南アジアに飛ぶことができる。もし、韓国の仁川空港や上海、香港などの空港と張り合うのであれば、着陸料を大幅に下げればよいのであってハブ化論争はムダな論議であるとあたしは思うのである。

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