2010年4月2日金曜日

若林元農相議員辞職の意味するもの

 若林正俊・元農相が他人の投票ボタンを代わりに押した責任をとり、2日参院議長に議員辞職願を提出した。参院は同日この辞職願を受理した。

 あたしはこのことを知って、日本人の倫理観は堕ちるところまで堕ちたな、と思った。若林元農相は、31日の本会議で行なわれた計10件の採決すべてにおいて、青木幹雄前参院議員会長の投票ボタンを代わりに押したと言っている。本人は「魔が差した」とその理由を述べているが、そんな単純な理由でこのことを過去の出来事とするわけにはいかないのだ。その重大さは本人が一番良くわかっていると思う。「魔が差した」と判断できる精神状態であるならば、なぜその時に自分を律することができなかったのか。思いとどまるチャンスは10回もあったのだ。こうなると確信犯の疑いも出てくる。問題になって初めて犯したことの重大さに気づく、というのはおそらく見せかけだ。だからこそ間髪をいれずに辞職願を出したのだ。しかしそれで罪がなくなるわけではない。人生の末路に差し掛かった者が、この一件でさらに重荷を背負ったことになる。元外務事務次官の故村田良平氏は、日米間の密約について積年の思いを吐露し、人生の最後に本当の人間としてこの世を去った。若林氏が辞職しようとどうしようと、今回の件によってもたらされる悪影響は、白地に染み付いた血の様に取り去ることができないのだ。

 あたしにはもう一つわからないことがある。重要な採決の時に、なぜ青木幹雄前参院議員会長が席を外したかということだ。体調でも悪かったのであろうか。

 参議院で押しボタン式投票が取り入れられたのは平成10年からだ。この導入時点で今回のような「代押し」があるとは考えもしなかったろう。それほどこの押しボタン式投票は議員の信頼の上に成り立って、初めて正しい運用がなされるものだ。

 若林元農相の行いはこれを完全に覆すもので、これから押しボタン式投票が行なわれる際には議員一人ひとりの行動をチェックする必要がでてきた。もしくは押しボタン装置に議員の個々の認証システムを取り入れる必要があるかもしれない。マスコミは若林元農相の辞職ばかりを報道しているが、彼は次回の参院選挙には立候補せず、引退する予定だった。こういう人間を追いかけてマスコミで報道する価値も無い。問題は、神をも恐れぬこのような行為を国会議員がさらりとやってのけて、「魔が差した」「議員辞めます」という言葉だけで、社会が一件落着とすることだ。

 人は他人が見ていないところで、利己的な行動を平気でする。説法を説く僧だって例外ではない。原発に反対する者が家に帰ると、平気であちこちの電化製品のスイッチを入れる。高速道路の反対を唱えている者が毎週土日に高速道路を使って遠方まで家族旅行に行く。地球の温暖化を憂う者が家庭では灯油を惜しみなく使う。

 看護師が仕事の上のうっぷんを晴らすため、入院患者の肋骨を折った事件があったが、高齢の入院患者はおそらくこの看護師を信じて看護を受けていただろう。店頭に並ぶ季節の食材である国産タケノコが中国産だったとは消費者は思いもしなかっただろう。牛肉に豚脂を混ぜて高級牛肉に偽装して高値で販売しているのを、あたしたちは唯一の贅沢として購入する。

 この世の中は多くのシステムが信頼の上に成り立っている。それをいいことに、他人を欺くようなことを、他人が見ていないところで平気で行なう日本人が多すぎる。

 有権者の負託に応えて、と当選した国会議員は言う。そういう国会議員だって、国民の目の届かないところでは、国民をあざむくようなあくどいことを平気でやっているかもしれないという疑惑を、あたしは今更ながら感じる。

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